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「保険給付の制限」その2

今月も「健康保険が効かない(保険給付の制限)」にスポットをあてたマニアックなコラムです。

被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、 その全部又は一部を行わないことができる。(健康保険法第117条)

ここに出てくる著しい不行跡とはいったい何を指すのでしょうか? 我が国は法治国家です。「こんなケースはこう対処しろ」という指示が上級官庁より発せられます。
今は便利な世の中でして、大昔の通知でさえ、ネット※を使えば簡単に閲覧することができます。
(※厚生労働省のホームページ「法令データベース検索」)
調べてみました。戦前の昭和4年、内務省社会局保険部長から各健康保険署長・各健康保険組合理事長あての通知として、 以下のような文書が大真面目に出されています。

被保険者著シキ不行跡ニ因リ事故ヲ生セシメタル場合ニ於ケル取扱ニ関スル件(昭和4年5月23日 保発第56号)

一 著シキ不行跡ニ依リ保険事故ヲ生セシメタル場合トハ固ヨリ一般社会通念ニ依リ其ノ都度認定スヘキモ大体被保険者カ結婚生活以外ノ原因ニ因リ数回連続的ニ花柳病ニ罹リタル場合又ハ同原因ニ因リ著シク花柳病ノ症状ヲ増悪シタル場合ヲ指スモノト為スコト 但シ理髪、入浴其ノ他偶然ノ機会ニ於テ感染シタル場合ヲ除クコト

カタカナで読みづらいですが、上の通知はこういうことです。
「著しい不行跡とは、社会通念によってその事例一つ一つを判断すべきではあるが、強いて例を挙げるならば、 結婚してる旦那が、遊郭で悪さして、立て続けに性病に罹患したり、症状を悪化させたりした場合を指すのだ。  ただし同じ性病でも散髪屋や銭湯などで偶発的に感染した場合はセーフだよ。」 例えに挙げるのが「花柳病」なのも笑えますが、散髪屋さんと銭湯での感染はセーフだと、わざわざ追記してるのも、笑えます。 通知は、二、三、と続くのですが、この後の文章は、不行跡とされた被保険者への救済措置についての内容でした。 真面目なお役人が作られたのだなと、笑いながらも感心させられました。

田中歯科クリニック  田中 隆博

(大阪市福島区吉野4丁目25-23)